尿もれと下腹ぽっこりは、同じところから来ているかもしれません

ピラティス

くしゃみをした瞬間に、ヒヤッとしたことはありませんか。

咳をしたとき。立ち上がったとき。重いものを持ち上げたとき。少しだけ、でも確かに。

そして鏡の前で、下腹だけが出ていることに気づく。食べても食べなくても、そこだけが変わらない。

この2つは、別々の悩みに見えます。けれど、同じ場所から来ていることがあります。

この記事では、骨盤底筋という筋肉の話をします。ただ、「鍛えましょう」という話ではありません。

鍛える前にやることがある、という話です。私自身が、それを知らずに遠回りした人間だからです。

33歳のとき、大人用のパッドを使っていました

ヨガとピラティスの指導者になる、2年ほど前のことです。

留学のための英語の試験を受けようとしていました。長時間の試験です。そして当時の私は、体調を崩していて、全身が弱っていました。特にインナーマッスル、骨盤底筋、横隔膜。

試験中、尿意がすぐに来ました。しかも、我慢ができません。

試験会場でトイレに立つには厳重な手続きが必要で、時間もかかります。その分は制限時間から引かれますから、大きな損になります。かといって、我慢はできない。

それで私は、大人用の尿もれパッドを使っていました。33歳でした。

自分の身体のことで、自分のやりたいことが削られていく。あの感覚は、いまでもよく覚えています。

年齢ではなく、状態でした

誤解のないように書いておきます。私の場合は加齢ではありません。体調を崩していて、生体としてのレベルが落ちていた。それだけのことです。

けれど、そこで気づいたことがあります。

入口が違うだけで、たどり着く場所は同じでした。

入口が違うだけで、たどり着く場所は同じです

女性の身体は、30代半ばあたりからホルモンの分泌が緩やかに変わりはじめます。筋肉量は30代をピークに、何もしなければ10年ごとに1割前後ずつ減っていくとも言われています。

そして40代後半から50代にかけて、エストロゲンの低下が加速します。エストロゲンは尿道の筋肉にはりを持たせ、尿道の支えをしっかりさせる役割を持っていると言われています。それが減れば、筋肉の組織から弾力が失われていきます。

私は体調不良という近道を通って、その場所に早く着いてしまいました。多くの方は、時間をかけてゆっくり着きます。

入口が違うだけで、身体の中で起きていることは同じです。

だからこそ、お伝えできることがあると思っています。私はそこから戻ってきたからです。

骨盤底筋は、ハンモックのような場所です

骨盤の底に、ハンモックのように広がっている筋肉があります。骨盤底筋群です。

恥骨、尾骨、坐骨のあいだに張られていて、膀胱や子宮、直腸といった臓器を下から支えています。同時に、尿道や肛門を締める働きも担っています。

ここがゆるむと、2つのことが起こると言われています。

ひとつは、尿道を締める力が落ちること。くしゃみや咳でお腹に圧がかかったとき、支えきれずに漏れてしまう。これが腹圧性尿失禁と呼ばれるものです。40歳以上の女性のうち、4割を超える方が尿失禁を経験しているという調査もあります。

もうひとつが、臓器を支える力が落ちること。支えが弱くなれば、内臓は重力にしたがって下がります。下腹だけが出てくるのは、これが理由のひとつだと言われています。

尿もれと下腹ぽっこり。別々の悩みに見えて、同じ場所の話なのです。

なぜ40代から働きが落ちるのか

理由はいくつか重なります。

出産の影響。 妊娠中は数か月にわたって重みがかかり続け、出産では骨盤底が大きく引き伸ばされます。産後に一度おさまっても、40代を過ぎて再び出てくることがあると言われています。

ホルモンの変化。 先ほど書いたエストロゲンの低下です。筋肉や粘膜の弾力に関わります。

姿勢と腹圧。 長時間のデスクワークやスマートフォンで背中が丸まると、上半身の重みが腹部を圧迫します。常に下向きの力が骨盤底にかかり続けることになります。

そして、使っていないこと。 骨盤底筋は自分では見えず、動いている実感も持ちにくい場所です。意識しなければ、何十年も使われないまま過ごすことになります。

「鍛える」より先に、「動かす」

ここからが、この記事でいちばんお伝えしたいことです。

骨盤底筋体操を知っている方は多いと思います。締めて、ゆるめて、を繰り返すものです。やってみたけれど続かなかった、効いている気がしない。そう感じた方も多いのではないでしょうか。

理由があります。

骨盤底筋は、横隔膜と一緒に動いています

骨盤底筋は、単独で働いている筋肉ではありません。

横隔膜、腹横筋、多裂筋と一緒に、身体の中に一つの空間をつくっています。上のふたが横隔膜、底が骨盤底筋、側面が腹横筋、背面が多裂筋。この4つでインナーユニットと呼ばれます。

そして呼吸をするたびに、上と下は連動しています。

息を吸うと横隔膜が下がり、骨盤底筋もゆるんで下がる。息を吐くと横隔膜が上がり、骨盤底筋も引き上がる。上下でひとつのポンプのように動いている、と説明されます。

つまり、呼吸が浅ければ、骨盤底筋も動いていないということです。

弱いのではなく、連携できていない

もうひとつ、大切なことがあります。

尿もれを伴う骨盤底筋の機能不全がある場合、骨盤底筋と腹横筋が一緒に収縮する働きが活発でないことが分かってきていると言われています。

力が足りないのではなく、連携が取れていない

だとすれば、いきなり「締める」練習をしても、うまくいかないのは当然です。動いていない筋肉に力を入れようとしても、感覚がつかめません。

順番があります。まず動かす。動く感覚がわかってから、支える力を育てる。

私が膝を痛めたときと、まったく同じ構造です。硬いまま動かせば壊れる。動いていないまま鍛えようとしても、届かない。

くいしばりが、呼吸を浅くすることがあります

もう一段、上の話をします。

無意識のくいしばりで、あごや首、肩がこわばっている方は少なくありません。上下の歯が触れ合うのは1日20分程度が自然だと言われていますが、何時間も噛みしめ続けている場合があります。

首や肩、胸まわりがこわばると、肋骨が広がりにくくなります。肋骨が動かなければ、横隔膜も十分に下がれません。

そして横隔膜の動きが小さくなれば、連動している骨盤底筋の動きも小さくなる。

あごと骨盤底筋が直接つながっているわけではありません。 けれど、呼吸と横隔膜という中継地点を通して、遠く離れた場所どうしが影響し合っていることがあります。

肩こりの相談でいらした方の呼吸が浅いこと、そして骨盤底の悩みを同時に抱えていること。それは、決して珍しいことではありません。

東洋医学の見方でも、あごから胸、腹部を通って下腹へ向かう経絡の流れ(足陽明胃経)や、身体の正中を走る任脈・衝脈が、この領域と関わるものとして扱われます。

家でできる、ひとつだけ

たくさんお伝えしても続きません。ひとつだけ書きます。

仰向けで、肋骨に手を当てて呼吸をする。

  1. 仰向けになり、両膝を立てます
  2. 両手を肋骨の下のあたり、脇腹に近い位置に添えます
  3. 鼻から息を吸い、手のひらを外に押し広げるように、肋骨を横に開きます
  4. 口から細く長く吐きながら、肋骨が閉じていくのを感じます
  5. これを5回

ポイントは、お腹を膨らませることではなく、肋骨を横に広げることです。

慣れてきたら、吐くときに骨盤の底がふわりと引き上がる感覚を探してみてください。分からなくても構いません。まずは肋骨が動くこと。それが横隔膜が動いているということです。

寝る前の5回で十分です。頑張らないでください。

戻ってしまうのは、順番の問題かもしれません

呼吸で動きを取り戻したら、次は支える力を育てる段階に進みます。

ここでピラティスが必要になります。骨盤底筋だけを取り出して鍛えるのではなく、インナーユニット全体が連携して働く状態をつくっていく。姿勢が変われば、骨盤底にかかる下向きの力そのものが変わります。

そして、こわばりが強くて呼吸が入らない方には、その前にほどく段階が必要です。首、肩、あご。鍼灸はそこを担当します。

ほどく、動かす、つなぐ。

順番を守ると、変わりやすいと言われています。逆にすると、うまくいかないことが多いのです。

気になる症状があるときは

最後に、大切なことをお伝えします。

尿もれにはいくつかのタイプがあり、原因も異なります。急に強い尿意が来る、排尿時に痛みがある、量が明らかに多い、日常生活に支障が出ている。こうした場合は、膀胱炎や過活動膀胱など、別の原因が隠れていることもあります。

まずは婦人科や泌尿器科でご相談ください。原因をはっきりさせることが先です。

そのうえで、身体の使い方や姿勢の面から取り組みたいと思われたときに、私がお手伝いできることがあると思っています。

恥ずかしいことではありません。4割を超える方が経験していることです。ただ、口に出しにくいだけなのです。

まとめ

  • 尿もれと下腹ぽっこりは、骨盤底筋という同じ場所につながっていることがあります
  • 骨盤底筋は臓器を下から支え、尿道を締める働きを担っています
  • 出産、ホルモンの変化、姿勢、そして使っていないこと。原因は重なります
  • 骨盤底筋は横隔膜と連動しており、呼吸が浅いと動きも小さくなります
  • 弱いのではなく、連携できていない場合があります。だから「鍛える」より先に「動かす」
  • 家でやるなら、仰向けで肋骨を広げる呼吸を5回だけ
  • 気になる症状があるときは、まず婦人科・泌尿器科へ

施術者として思うこと

この記事を書くかどうか、正直なところ迷いました。でも、私の体験が誰かの役に立つならと思って書きました。

恥ずかしいことではありません。身体の状態が変わっただけです。

あの頃の自分に伝えたいことがあるとすれば、身体は何歳からでも変えられる、ということ。筋肉は、いつからでも育てられます。

「つらいけど、誰にも言えへんかった」

そうおっしゃる方に、いつもお伝えしていることがあります。

減ってしまったものは、他のところでカバーできます。

今から、一緒にスタートしましょ。

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